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東京高等裁判所 昭和34年(う)785号 判決 1959年10月26日

被告人 中本俊二

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

控訴趣意第一点について

原判決書によれば、原判決が其の理由中罪となるべき事実として原判示第一の一、二同第二の一、二の昭和二十二年勅令第九号違反並に売春等取締条例違反の有罪事実を認定判示して居ることは所論が各事実毎に摘録して居るとおりである。

所論は之に対し(一)原判示第一の一の高木ゆきこと萩原勝子に対しては同女の希望する恋愛や結婚の相手を紹介してやる意図の下に被告人主催の恋愛学校に入会を許したのであつて、同女が被告人主催の恋愛学校の組織を利用して売春行為を為す意図の下に恋愛学校に入会したとしても、被告人は同女の意図を全然認識せず同女に欺罔されて入会を許したに過ぎない。同女に売春させることを内容とする契約を締結した事実は全くない。(二)原判示第一の二の黒川正雄は被告人に対し教養の高い女の人を世話して呉れとの依頼があつたので萩原勝子を紹介したのであつて、仮りに黒川正雄に於て売春婦の斡旋を被告人に依頼する意図であつたとしても、被告人は黒川正雄の意図を全く認識せず、教養の高い女との純粋な交際を希望して居るものと信じ、被告人に於て純粋な交際を望んで居るものと誤信して居た萩原勝子を黒川正雄に紹介したのに過ぎない。被告人は黒川正雄、萩原勝子両名より入会金を受領したが右紹介による斡旋科等は取つて居ないし、右紹介後両名が、貞操取引をしたことは被告人の関知せざるところであるから判示のように男子を誘つて売春婦と性交することを勧める客引を為したことはない。(三)原判示第二の一の八木秀子こと野田秀子に対しては同女の希望する健全なる男女の交際乃至恋愛の相手を紹介してやる意図の下に被告人主催の恋愛学校に入会せしめたもので、野田秀子が被告人主催の恋愛学校の組織を利用し売春行為を為す意図の下に恋愛学校に入会したとしても、被告人は同女の意図を諒解することが出来る筈なく同女に欺罔されたもので同女に売春させることを内容とする契約を締結した事実は全くない。(四)原判示第二の二の田中久雄は被告人に対し配偶者の斡旋を依頼したので、田中久雄の希望どおり当時学生と称し被告人も学生と信じて居た野田秀子を配偶者の候補者として紹介したのに過ぎない。田中久雄を誘つて野田秀子と性交することを勧誘した事実は全くなく、両名より入会金は受領したが、紹介による手数料等は受領して居ないのであつて、紹介後両名が貞操取引したことは被告人の全然関知せざるところである。尚原判示の「いい妓が居りますがどうですかとあるは配偶者にいい子が居るとの誤であると思われる。」以上のとおり原判決には事実の誤認があり其の誤認が、判決に影響を及ぼすことが明らかであると言うに在る。

よつて案ずるに原判決認定の原判示第一の一、二第二の一、二の事実は、各所論の点をも含めて総て其の挙示する証拠により優に之を肯認することができるのであつて、これ等証拠によれば原判示のように原判示萩原勝子及び野田秀子等が同女等の生活を援助する男子会員の斡旋を求めて被告人のガイドクラブに入会を申込んで来るや、同女等に対し其の生活援助は同女等の貞操の提供を条件とするものであることを了承約諾させて同女等に売春させることを内容とする契約を為し、原判示黒川正雄、田中久雄に夫々原判示のように申向けた上同女等を売春を為す被援助交際者として引合わせて所謂客引を為したもので、所論のように健全なる男女間の交際、恋愛、結婚の紹介を内容とする契約を為したものでもなく、また純粋なる交際者乃至配偶者の候補者として同女等を紹介したに過ぎないものでもないことも明らかである。而して諸証拠のうち右認定に矛盾牴触する部分は原判決が、他の証拠に照らし証拠として採用しなかつたものと思われ、記録を精査し、当裁判所の事実取調の結果に徴して見ても所論の主張を認めて右認定を覆すに足る証拠はないから、原判決が挙示の証拠により判示事実を認定したのは正当であつて、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点について

所論は要するに(一)本件の事実は前記のとおりであつて仮りに萩原勝子、野田秀子の両名が、各々黒川正雄、田中久雄の両名を相手に売春行為をなしたことが被告人の紹介によるもので、被告人が萩原勝子、野田秀子の両名が、売春することを予見して居たとしても、それは単に同女等が売春することを知つて居たに止まり、売春させることを内容とする契約を同女等と締結したことにはならない。即ち被告人は同女等を自己の主催する変愛学校に入会せしめたに過ぎなく、売淫周旋料らしき金員の授受は行われて居ないし、また同女等が被告人の紹介後被告人と無関係に売淫して居り同女等と被告人との間に売淫行為に伴う債権債務のないことからも婦女に売淫させることを内容とする契約をなしたとは見られない。然るに原判決は之に対し昭和二十二年勅令第九号第二条を適用したのは明らかに法令の適用を誤つたものである。(二)原判決は萩原勝子、野田秀子を夫々黒川正雄、田中久雄に引合せた事実に売春等取締条例第四条を適用して居るが、同条に所謂客引とは代償を得て売春婦の下に客を誘引することであつて、本件に於ては被告人は無償にて異性双方を紹介したものであるから、仮りに右両性の間に代償を伴う性行為があり、被告人が該事実を知つて居たとしても、右に所謂客引とは為らない。然るに原判決は之に対し売春等取締条例第四条を適用して居るのであるから原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の適用の誤があると言わなければならない。(三)本件行為当時は所謂赤線青線等の公娼施設があつて、公娼の抱主である楼主は総て人に売春させることを内容とする契約をなしたものであり、また、男子を誘つて売春婦と性交することを勧める客引をしたもので、これ等の存在を認め乍ら本件の如き昭和二十二年勅令第九号及び売春等取締条例の規定を置くことは、法秩序の矛盾でありこれ等法規に違反したもののみを処罰するのは衡平を欠くものと言うべく、更に現行法上に於ても妾、内妻、パトロン等の男女関係も許されておりこれ等の斡旋を為すことも禁じられて居ない矛盾がある。従つて斯かる矛盾を包蔵し不衡平な法令を適用した原判決には法令適用の誤があつて其の誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであると言うにある。案ずるに原判決認定の事実は前記のとおり総て其の挙示する証拠により優に之を肯認することができるのであつて、(一)原判示第一、第二の各一の事実は原判示萩原勝子、野田秀子等が同女等の生活を援助する男子会員の斡旋を求めて被告人のガイドクラブに入会を申込んでくるや、同女等に対し其の生活援助は同女等の貞操の提供を条件とするものであることを了承約諾させ、同女等をして売淫に至らしめることを内容とする契約をなしたことが明らかで、所論のように単に同女等が売春することを知つていたに過ぎないものでもなく、また、同女等と被告人等との間に売淫行為に債う償権債務のない契約であるとも見られないから右原判示第一、第二の各一の事実に対し昭和二十二年勅令第九号第二条を適用したのは正当である。(二)また、原判示第一、第二の各二の事実は右認定に引続き原判示黒川正雄、田中久雄に夫々「今度はいい人が居りましたすぐ来て見て下さい」とか「田中さん学生でとてもいい妓が居りますがどうですか」と言う趣旨に解せられる言辞等申向け夫々萩原勝子、野田秀子等を売春を為す被援助交際者として引合せ、以て男子を誘つて売春婦と性交することを勧める客引を為した旨認定判示し、之に対し売春等取締条例第四条を適用したのは正当である。所論は右に所謂客引とは代償を得て売春婦の下に客を誘引することであつて本件は無償で異性双方を紹介したものであるから所謂客引に該当しないと主張するが右売春等取締条例第四条に客引をなすとは売春婦と性交することを周旋勧誘することを言い必ずしも代償を得て周旋勧誘を為すことを言うものと解されない許りでなく(東京高等裁判所昭和三十一年十二月十七日宣告刑事判例参照)。本件に於ては之が周旋勧誘料として当初は入会金名義で次いで売春婦と思われるものを一人紹介する毎にガイド料名義で夫々金銭を受領して居たことが記録上明白であるから、原判決には所論のような法令適用の誤はない。(三)其の他所論は法令適用の誤として売春取締に関し論及して居るが、右論及は売春取締に関する政策乃至立法上の欠陥を指摘するに過ぎない。以上のとおり原判決には所論のような判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤はない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 山田要治 滝沢太助 鈴木良一)

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